丹波篠山といえば、黒豆枝豆、丹波栗、ぼたん鍋と秋から冬にかけておいしいものがこれでもかと目白押しの自然環境豊かな土地として知られます。一方で、「丹波篠山牛」の名前は全国にはまだまだ知られていません。東門さんは肉牛部会の副部会長として、丹波篠山牛を知って食べてもらうことに熱心に取り組んでいます。令和の時代が幕を開けた2019年5月1日、「丹波篠山市」誕生を祝って開かれたおまつりでは、東門さんが仕込む「丹波篠山牛丸焼き」を求めて早朝から長い行列ができました。
店舗を訪れた私にも、東門さんはその場でステーキを焼いてふるまってくれました。「最後にちょっと醤油と酒、味付けはそれだけ。肉が甘いでしょ。ほら、好きなだけ食べていってよ」。「いただきます」と手を合わせ、中心にほんのり赤みが残ったステーキを口に入れると、歯をそっと乗せるだけで肉がほぐれていきます。脂はあっという間に溶けてなくなり、肉の甘い香りがふわりと鼻の奥にただよいます。牛飼いの愛情と肉屋の熱量がたっぷりつまった丹波篠山牛の一番おいしい食べ方を知りました。