鎌倉の“海の資源”の活用からはじまった挑戦
神奈川県鎌倉市の大きな魅力の一つは、街から少し足を伸ばせば、由比ヶ浜や材木座など、人気の海水浴場があること。そんな海ならではの資源といえば、海藻です。鎌倉には波とともに多くの海藻が浜辺に打ち上げられていますが、これまでは食べることなく廃棄処分されていました。
この海藻を地域資源という視点から着目して生まれたのが、鎌倉独自のブランド豚「鎌倉海藻ポーク」。今回ご紹介する返礼品は、鎌倉の浜辺からはじまり、地域の絆が育てた唯一無二のブランド豚「鎌倉海藻ポーク」です。
社会のつながりの中で育つ豚「鎌倉海藻ポーク」
鎌倉海藻ポークは、飼料に海藻を混ぜて育てることで、ミネラルやビタミンが豊富なうま味の強い豚肉になります。一般的な豚肉より脂の融解温度が低くなり、口の中で早くとろけるのが特徴です。
このポークの魅力はそれだけではありません。海藻の回収から粉砕、パッケージ化といった海藻を飼料にする工程は、鎌倉市内の障がい者福祉施設と高齢者が担っています。地域資源を活用し、製造から販売のサイクルの中てで障がい者や高齢者の社会参加を生みだす鎌倉海藻ポークは、まさに”ソーシャルグッド“な産品なのです。
海に打ち上げられた海藻から生まれたアイディア
このプロジェクトは、鎌倉市在住の料理家・矢野ふき子さんの発案でスタートしました。矢野さんは、鎌倉を拠点に料理家として活躍する一方で、地元食材と深く向き合い一次産業の支援に取り組んでいました。
活動の中で出会ったのが、由比ヶ浜や材木座に打ち上げられる大量の海藻でした。打ち上げられた海藻は食用にされることはなく、廃棄される現実。矢野さんは「この海藻を使って、何か新しい取り組みができないか」と考えます。海藻のもつ栄養価の高さに目をつけ、飼料として使う養豚の可能性を模索しはじめました。
“この地域だからこそ”実現できる養豚業
このプロジェクトを進める肝になるのが、鎌倉からすこし離れた地で、“真に美味しいと思える豚肉”を求めて試行錯誤する養豚家の存在です。それが、神奈川県厚木市の「臼井農産」。臼井農産は、1961年に養豚で創業し、2009年には株式会社うすいファームを立ち上げて肉の加工や直売もはじめました。豚肉を購入するお客さんの声を聞きながら、「目をつぶって食べても違いがわかるおいしい豚肉」を目指しています。
代表の臼井欽一(うすい きんいち)さんは、「神奈川県で養豚を続けてきたので、地元由来の何かを餌に使いたいという気持ちがずっとあったんです」と話します。過去には神奈川産の足柄茶 を飼料として使うなど、地元ならではの養豚やより良い肉質を求めて研究を重ねていたそうです。
地域がつないだ、想いのバトン。「鎌倉海藻ポーク」の誕生
地元の資源を探し、臼井さんがたどり着いたのが、やはり海藻。「豚は、給餌される飼料によって体が構成されるので、一番肉質に影響を与えるのはやはり餌なんです」と臼井さんは語ります。豚の飼料として海藻が良い効果をもたらすことを知っていましたが、海から距離のある臼井農産が海藻を回収することは難しく断念していたのだとか。
そんな中、神奈川県畜産技術センターを通じて知ったのが、矢野さんの取り組みでした。矢野さんはこの時すでに、鎌倉漁業協同組合から漂着する海藻の漁業権について回収の許可を得ており、障がい者の方々と海藻を飼料化する体制も整いつつありました。当時を振り返って「まさに、渡りに船だと思いましたね」と笑顔で語る臼井さん。こうして、矢野さんの取り組みと、臼井さんのタッグが2019年に生まれたのです。 臼井さんは、「鎌倉海藻ポーク」のために鎌倉の地に「臼井農産鎌倉事業所」を立ち上げ、きめ細かい対応にあたっています。
豚のおいしさは飼料で決まる。肉質にもたらす海藻の力
鎌倉海藻飼料と通常飼料の配合割合を変えるなど、試行錯誤しながら、高い肉質とおいしさを追求して生まれた鎌倉海藻ポーク。臼井さんと矢野さんは、神奈川県畜産技術センターと連携し、海藻を食べた豚と食べていない豚の肉質の違いの調査や分析も行っています。
調査の結果、1.脂の融点が低く、口の中で溶け出すスピードが早いこと、2.赤身に含まれる脂肪分が通常飼育の豚肉の半分、3.旨味の指標であるオレイン酸が和牛並みに高いことなどの特徴がわかったそうです。
贅沢に部位の食べ比べを楽しむ「鎌倉海藻ポーク」
鎌倉海藻ポークは、月に4〜5頭とごく少量の出荷量のため希少な存在です。今回の返礼品は、いろんな部位が真空パックに詰められた状態で届きます。丁寧に育てられた豚のさまざまな部位の違いを食べ比べができるとは、なんて魅力的!
おすすめの食べ方も聞いてみました。ロースのステーキ用カットは、お肉そのものの味わいを楽しむように塩、こしょうのシンプルなソテーで。豚バラ肉のスライスは、茹で豚にもおすすめだそうです。 脂の融点が低くなる鎌倉海藻ポークならではの肉質は、冷めた状態でその違いがよりわかるのだとか。「美味しいお肉は、冷たくても美味しいんですよ」と、臼井さんは話します。
豊かな社会のサイクルから生まれる美味しさ
「鎌倉海藻ポーク」の源である海藻は、鎌倉市内の福祉事業所と老人ホームの方々が拾い集めてから、洗浄、乾燥、粉砕、パッケージまでを協力して製品化しています。回収する人たちは、社会参加できること、鎌倉の産品を生み出す源に関わっていることに誇りを持って取り組んでいるそうです。
鎌倉の海の恵みも人も活かした、鎌倉海藻ポーク。豊かな社会をめざすサイクルから生まれる美味しさにぜひ、出合ってみませんか?
関東支部(神奈川県鎌倉市担当) / 大久保 真衣(おおくぼ まい)
東京で会社員として働きながら、ライター/インタビュアーとして人のストーリーを中心にインタビューや取材記事を執筆しています。食べること、旅することが大好き。まだ知られていないひと・もの・ことの魅力を発掘し、あたらしい”心ときめく出会い”を贈ります。
豊かな自然と歴史を感じられるスポットが点在するのが魅力の鎌倉。何度訪れても新しい発見のある場所です。