港とまちがすぐそこ、海の幸に恵まれた宇部市
ふぐの取扱量が全国一を誇る山口県。水揚げはもとより、資格を取ることが難しいとされる加工の技術も高く、質・量ともに本場として揺らぎない「ふぐ王国」です。その瀬戸内海側に位置する宇部市は、港と市街地が近く、海の幸に恵まれたまち。魚市場から車で5分もかからない近距離に市役所があるという立地です。さらにそこから歩いて数分の場所に、名物の魚屋がありました。宇部市の返礼品の「国産とらふぐ刺身セット」をお届けする、「魚千代(うおちよ)」さんです。
魚のプロとして50年。自らふぐの処理師免許を取得
社長の村田稔(むらた みのる)さんは18歳からこの道に入り、ちょうど50年のキャリアを持つベテランです。父や兄が営んだ100年超の老舗「村田鮮魚店」で腕や勘を磨き、24年前に宇部でご自身の店「魚千代」を構えたそう。扱う魚や技への信頼から、まちを活気づける飲食店との取り引きが増え、卸もたくさん手がけてきました。そういった経緯から料理に関する知見も蓄積され、まるで和食店の「大将」と呼びたくなる佇まいです。
それもそのはず、「もともとは料理人になりたかった」という村田社長。小学生の時から包丁を握り、当時の夢は「東京都心部で田舎の味が楽しめる飲食店を出すこと」だったそう。45年ほど前にふぐの処理師免許を取得した当時は、県内の有資格者は両手の指で数えられる希少な存在だったといいます。
写真のふぐ刺しは、村田社長が手がけたもの。技を身につけるには数年かかると言われる、ふぐの身を均等な薄さで引いた菊盛りの美しさは圧巻です。この刺身だけでなく、ちり(鍋)用の切り身や、皮の湯引き、ひれ酒用のヒレなどがてんこ盛りで付く豪華セットが、社長もおすすめの「国産とらふぐ刺身セット」です。
魚屋だから実現できた、こだわりと味の使命
「国産とらふぐ刺身セット」は、山口県内の海辺で生まれ育った私から見ても、正直、「こんなに豪華な内容で良いの?」と尋ねたくなるほどの充実ぶり。仕入れから調理まで手がける「魚千代」だから提供できる内容になっています。
華やかな刺身は、ふぐの王様・とらふぐを使用。潮流が激しい長崎沖を泳ぎ、下関で水揚げされたふぐを仕入れています。「潮が速いとふぐがしっかり運動し、繊維が鍛えられて身にうま味が出ます。ふぐの中でもエリート級といった感じでしょうか」と、海域まで把握した仕入れ。おいしい魚を消費者に届けることを使命とした、まちの魚屋ならではのこだわりです。
注文が入ると、活きのとらふぐを締め、熟成に入ります。「ふぐはとても水分の多い魚なので、持ち味を引き出すには、いかに水分を抜くかがポイント。しかし鮮度も大きく関わってくるため、時間をかければ良いというわけではありません。そのために試行錯誤を重ね、当店独自の熟成法を生み出しました」と村田さん。技術のすべてはお伝えできませんが、水分を抜く作業を3日間かけてこまめに繰り返すことで、甘味も感じられるおいしい刺身になるそうです。
また、美しく盛られた器の大きさにも理由がありました。「和食の世界では、一尺(約30cm)が2人前。そういった伝統も踏まえています」と、熟練の技で透き通るほど薄い刺身を引き、社長が芸術的な菊盛りを披露してくれました。
豪華なセット内容に注目!
ふぐ自体へのこだわりはもちろん、セット内容も魅力なので、1つずつ注目してみましょう。セットには、刺身のほかにちり(鍋)で楽しめる切り身も付きます(写真の野菜はイメージ)。ふぐはダシとしてのうま味も評価が高いので、雑炊などで余すことなく堪能するのがおすすめです。この切り身は食べ応えがあるので、唐揚げにするのも良いとのこと。
うれしいのは、ポン酢や薬味も揃っている点。「特製のポン酢は、酸味を少し控えめにして、刺身でも鍋でもおいしく味わえるように工夫しました。ネギは、刺身の繊細な味わいを引き立てるよう、宇部ネギや安岡ネギといった極細の小ネギを選んでいます。もみじおろしもですが、すべて自家製です」。トータルな味わいまで考えたラインアップは、料理人を志したことがある村田社長ならではの配慮だと感じました。
職人が提供できる、酒のアテにたまらない珍味
さらにクローズアップしたいのが、このとらふぐの皮の湯引きです。ふぐ処理師の高い技術があるからこそ提供できる一品で、身が付いたものやコラーゲンを含むゼラチン質など、部位別の味わいが楽しめます。特に鮫皮と呼ばれる部分はトゲがあるため、「処理できるまでに10年はかかる」と言われるほど熟練技を要するとか。コリコリした歯ごたえも特徴なので、刺身や鍋を楽しんだ後、お酒のアテとしてゆっくり味わうのも良さそうです。
嬉しいことに、今回のセットには、とらふぐの胸ビレが付いているので、ひれ酒もおすすめです。「尾をひれ酒に使うこともありますが、尾は香りが弱いため、当店では胸ビレのみを使っています」と社長。備長炭を起こし、遠赤外線でじっくり丁寧に焼いています。風味が豊かなので、熱燗にポンと入れるだけで2杯まで楽しめるそう。全国的にも人気が高い宇部の地酒など、日本酒にもこだわってみたいですね。
多彩な楽しみ方で、郷土の魚食を知ってほしい
最後に、「私は魚のことしか分からないけど」と切り出した社長。「魚を生かしたい、おいしい魚を食べてもらいたい思いで皆さんにお届けしていますが、次世代の子どもたちにも、もっと魚を食べてもらえるよう、魚食の継承に取り組んでいきたいと思っています。宇部沖では昔から小魚が多く獲れていて、骨ごと刺身にする『背ごし』や煮付けなどが家庭の食卓で愛されていました。商品を通して、魚のおいしさや食べ方など、大事な魚食文化も伝えていきたいですね。ふぐは、山口県が誇る食文化です。皮やひれ酒といった多彩な食べ方も楽しんでいただき、山口県の味をご堪能ください」。
魚屋としてのプライドが詰まったふぐセット
ふぐがどこの海を泳いだものかといった情報は、消費者として一般的に触れる機会は多くはないと思います。そういった部分にもこだわって伝えてくれることに、魚屋としての「魚千代」の誇りや魅力を感じました。また、皮やヒレの加工まで丁寧に手がかけられていて、魚への愛情も感じます。社長の思いに触れ、私も山口県民の一人として県の代表食をたっぷり堪能したいと思いました。
中国支部(山口県宇部市担当) / 河津 梨香(こうつ りか)
山口県上関町出身、萩市在住。広島で15年ほど編集やもの書きをし、地域おこし協力隊として山口県に帰ってきました。生活の中にある本質的なものに魅了され、その地域ならではの魅力や人々が紡いできたものを受け継ぎ、実践したいと思っています。萩のそんな部分に光を当てるリトルプレス『つぎはぎ』を、仲間3人と作っています。
魚市場とまちの中心部の近さに驚きました。これだけ近ければ、新鮮でおいしい海の幸が豊かなのは当然だと納得。誇りを持った名物店があることも宇部の財産だなと、魚好きのため、少しうらやましく感じました。