熱海といえば温泉。実は干物の“聖地”
全国有数の温泉保養地としても知られ、首都圏から近いこともあり、多くの著名人が移り住んでいる静岡県熱海市。特に熱海城の高台から望む複雑な海岸線と市街地の風景は絶景。夜景スポットとしても人気です。地元の人に「熱海の魅力は?」と聞いてみると、まず最初に「熱海は雪が降らず、温暖な気候で住みやすい!」というほど、温暖で気候条件がよい土地なんです。そんな熱海市には、熱海港と網代港という2つの港があります。相模湾の多種多様な魚が水揚げされ、魚もおいしい町。「小澤商店」の加工場は、そんな網代港のすぐ近くにあります。
熟練の職人が一つひとつ作る無添加の干物
全国の中でも有数の干物の産地・静岡県。中でも、アジは「塩汁」と呼ばれる塩水に10数分浸けてから干すという製造方法が一般的。アジの干物の生産量は、全国でも静岡県が11,193t、約41%を占めるそうです。(「2018年漁業センサス」農林水産省より)
日持ちさせるための保存食として知られる干物ですが、実は熱海においては「おいしいから干物にしている」というほど。熱海の干物はそれほどおいしいのです。昔ながらの製法でつくる熱海に加工場を構える「小澤商店」の干物について、社長・小澤紳一郎さんにお話を伺いました。
長年の経験から干物に最高な魚を見極める
早朝4:00。
小澤紳一郎さんは、毎朝、市場を訪れ、長年の経験により培ってきた目で干物に適した魚を仕入れています。「いい魚かどうかはすぐに分かる」とのこと。網代港の市場で仕入れてきた魚を加工場へ持ち込み、冷凍されていたものは解凍。その日の気温、魚の状態を見極め、ベストな状態で解凍させていきます。
熟練の職人が一つひとつ手さばきしていく
6:00過ぎ。
職人さんたちが集まり始めます。ベテランなおばちゃんたちがやってくるのかと思いきや、子育て中のママたちも多く、意外にも若い顔ぶれです。「うちもほんの少し前まではおばちゃんたちが多かったけれども、ちょうど世代交代を終えたばかり。それでも腕はすごいよ」
確かに、1匹のアジをさばく時間は10秒もかからない印象。全く同じ状態に開かれ、次々と並べられていきます。頭から2つに割り、背開きにする技術は、熟練の職人ならでは。こちらでは1日に1,000枚、年間25万枚ほどの魚をさばいているというから驚きです。
塩汁に浸けることで、一層味わい深くなる
開いたアジはざるに並べられ、伝統の塩汁に11分浸します。塩分濃度は塩度計が15℃を指すところ。この塩汁は天日塩を溶かした水だけでつくられているそうです。保存料などの添加物を加えるところもあるそうですが、「小澤商店」はシンプルに天日塩のみ。無添加にこだわっています。「保存料や酸化防止剤、着色料といった食品添加物を加えていないので、賞味期限が短く、色も少しくすんで見えるかもしれません。でも、シンプルな原材料で、安心だと思える商品を食べていただきたい。ただそれだけなのです」
ふっくらもっちりとしたおいしい干物に
塩水をかけるだけではく、塩汁に漬けることで、魚の筋繊維まで塩分が入り込み、うま味が変化。焼いた時にふっくらもっちりとします。アジの塩焼きも、お刺身も確かにおいしいですが、熱海のアジの干物をいただくと、アジの一番おいしい食べ方は干物だと実感させられます。ほどよい弾力、濃縮されたうま味、バランスのとれた脂加減…。まさに、「保存のために干物にしているのではなく、おいしいから干物にしている」ということがよく分かります。
温暖な気候は、干物づくりに最適
塩汁に漬けた後は、網に素早く並べ、加工場の屋上へ。心地よい海風が吹き抜け、まさに天日干しに最適な場所です。太陽に当てすぎると色が悪くなってしまうので、太陽の位置や日差しの強さを考えながら位置を調整していきます。ほどよい風があり天気のよい日であれば、1?2時間程度で完成するそうです。ちなみに雨天の日や日差しが強過すぎる真夏日など、天日干しにするには難しい日は冷風除湿乾燥機を使用します。魚本来のうま味を引き出す干し方を採用。干し終わったら急速冷凍でおいしい状態のまま凍らせ、発送されます。
届いたら一つひとつラップで包んで冷凍庫へ
冷凍状態でのお届けなので、冷凍庫で保管。一匹ずつラップに包んで保管すると解凍しやすく、おいしさが保たれます。食べる日の前の晩に冷蔵庫へ移し、自然解凍させましょう。グリルで焼いたり、フライパンの上にアルミシートを敷いて焼いたりするのが一般的ですが、社長の小澤紳一郎さんは「網で焼くのが一番!」とのこと。確かに伊豆の旅館やお店では、網で焼かれたものが出されます。少しハードルが高いですが、おいしくいただきたいなら網がおすすめのようです。
おいしい焼き方と食べ方
大きめのサイズの場合は中火で片面5分ずつ、合計10分程度焼きます。皮に脂が出てきて、焼き色がついたら食べごろ。ちなみに箸でほぐしてみて、身が骨からほぐれないようなら焼きが足りない状態です。大根おろしと合わせ、炊き立ての白いご飯にのせて食べるのが一番ですが、チャーハンの具にしても。地元では小ぶりのアジの干物を焼いた後、揚げて、丸ごと食べるのだそう!カルシウムがたっぷりとれそうですが、なんだかもったいないような……。産地である地元ならではの食べ方なので、よかったら作ってみてくださいね。
ちなみに、ふるぽ地域ナビゲーターおすすめの食べ方は、熱々の白いご飯の上に、ほぐしたアジと刻んだキャベツをのせ、ごま油と生姜醤油、お好みで七味を入れたタレをかけて混ぜご飯にする食べ方。ご飯が何倍でも食べられますよ。
彼らがつくる干物だからよりおいしい!
「小澤商店」の職人さんたちは、ともかく「人柄がいい」という印象を受けました。「ここにいると魚の匂いが全身につくよ。お姉さん、帰ったらお風呂に入った方がいいよ」とアドバイスも。魚の加工は決して楽な仕事ではないはずです。でも、決して嫌そうに仕事をしているわけでもなく、むしろ楽しそう。この仕事に誇りを持っているのが伝わってきました。その仕事ぶりは商品にも反映されています。一匹一匹の状態を見極め、魚の品質を損ねないよう素早く開いていました。
愛情を込めた手づくりの干物は味が違う
料理は愛情を込めてつくるとおいしく感じるように、干物もしかり。「小澤商店」の干物はつくる人の人柄や思いが込もった商品といえるのではないでしょうか。商品が届いたら、ぜひこの写真の方々の笑顔を想像してみてください。愛情込めてつくられた干物です。干物の身がほっこりしているように、きっと心がほっこりすると思いますよ。