富山県は医薬品産業が盛んで、全国トップレベルの生産金額を誇っています。
その歴史は江戸時代から始まり、「越中富山の薬売り」や「くすりの富山」ともよばれるほど。
なかでも県庁所在地の富山市は、古くから富山藩や富山の製薬・売薬の発展を支えてきました。
そんな街で、伝統的な薬を受け継ぎ販売し続ける商店を訪ねてみました。
富山県は医薬品産業が盛んで、全国トップレベルの生産金額を誇っています。その歴史は江戸時代から始まり、「越中富山の薬売り」や「くすりの富山」ともよばれるほど。なかでも県庁所在地の富山市は、古くから富山藩や富山の製薬・売薬の発展を支えてきました。そんな街で、伝統的な薬を受け継ぎ販売し続ける商店を訪ねてみました。
富山駅から路面電車の環状線、セントラムに乗車していると、車窓から見えたのが白の天守。途中下車して、富山城址公園の一角に天守を模して造られた「富山市郷土博物館」(通称「富山城」)に立ち寄ることにしました。
館内では、戦国時代から現在に至るまでの富山城の歴史などが、年表や模型、映像を使って解説されています。そこで富山藩第2代藩主・前田正甫(まえだまさとし)が、「売薬業発展の礎」といわれていることを知りました。調べてみると、一つの逸話に由来していました。それが「江戸城腹痛事件」です。
元禄3年(1690)、江戸城内で激しい腹痛に襲われたとある大名に正甫が常備していた薬「反魂丹」を与えたところ、たちまち腹痛が治ったそうです。これを知った諸藩の大名は、自分の領内でも販売してほしいと正甫に頼みました。この出来事が、全国的にも有名な「富山の薬売り」のきっかけになったというのです。
〈上〉市街地をめぐる路面電車。富山市は公共交通機関を軸にしたコンパクトな街造りを目指している 〈左下〉近世富山城の礎を築いた大名、前田利長が使用したという「銀鯰尾形兜」なども展示 〈右下〉富山藩前田家の家系図。正甫は肖像画付きで解説されている
富山市郷土博物館から徒歩で約15分、目的の「池田屋安兵衛商店」に到着しました。間口の広い、蔵のような立派な建物。その入口の上には「越中反魂丹」と書かれた大きな看板が掛かっています。店内は広々とした吹き抜けの空間で、重厚な外観からは想像できないような和モダンな雰囲気を感じさせます。
店内には、看板商品の越中反魂丹をはじめとした自社製造の和漢薬をはじめ、昔懐かしいレトロなパッケージの薬なども並んでいます。生薬を調剤する際に使用された古い道具類や、昭和前期の薬の金看板なども置かれていて、まるで資料館のような空間です。
見学していると、店の前にバスが止まり、団体旅行の一団が入店してきました。社長の池田安隆さんに聞くと「薬が有名な富山ですから製薬会社は多いのですが、実は歴史ある商品を一般販売している老舗は当店だけなのです」とのこと。伝統の技と精神を受け継ぐ池田屋安兵衛商店は、富山の薬の歴史を知る上では欠かせないスポットなのだそうです。
〈上〉建物3階部分までを吹き抜けにした開放感ある店内。左手に座売りの場と調剤室がある 〈左下〉「うちの葛根湯は煎じ薬ですが、効き目は抜群ですよ」と池田さん 〈右下〉越中反魂丹は、胃もたれや二日酔い、食欲不振などに効果を発揮。1回10粒、1日3回服用。100粒入り1980円など
店内の中央には、かつて実際に使われていた丸薬造りの機械が置かれています。これで丸薬の製造体験(無料、予約不要)にチャレンジできるというので、さっそく挑戦! まずは、お店の方が準備をしてくれます。薬が入った容器に上から圧力をかけると、容器下部の小さな穴から薬がところてんのように出てきます。それを小さな粒状に切り落としたものを台の上に並べたら準備完了です。
切り落としたものに上から板を当て、力をかけながら板を動かして、形を丸く整えます。簡単そうに見えますが「初めての人は、まず上手にできません」とお店の方が言う通り、とにかく難しい。大きさも形もバラバラの失敗作をたくさん作ってしまいました。団体旅行の一団もチャレンジしては失敗の連続。ワイワイと楽しむ声が店内に響きます。
〈上〉200以上の生薬を収めている薬棚。お客さんの症状や体質に合わせて調剤してくれる、昔ながらの「座売り」も実施 〈左下〉丸薬造り用の機械。かつては職人が一回に約1000個の丸薬を作っていた 〈中央下〉切り出したばかりの薬 〈右下〉お店の方のデモンストレーション。見事な“丸薬”に
店舗2階には、かつて製薬工場だったスペースをリノベーションしたレストラン「薬都」があります。ここでは漢方の考えに沿った、体にやさしいオリジナルの薬膳料理「健康膳」をいただきました。
メニューは季節によって変わりますが、すべて池田さんが考えているというから驚きです。薬膳というと身構えてしまいますが、旬の野菜やフルーツが使われ、洋風の料理も登場するので、初めての人や若い世代の人でもおいしくいただけます。特に名物の黒米のおこわは、もっちりとした食感とほんのりとした甘みがクセになるおいしさでした。
富山藩の殿様から始まった「くすりの富山」の歴史。その姿を今に伝える池田屋安兵衛商店は、魅力いっぱいの“薬のテーマパーク”といった店でした。富山といえば、日本海の幸が有名ですが、次の富山へのおでかけは薬を目的に訪れてみてはいかがでしょうか。
(2019年12月)
〈上〉健康膳は2160円~。手前の黒米のおこわと右の高麗人参と鶏団子のスープは通年共通のメニュー 〈左下〉デザートのアイスとシフォンケーキにもクコの実などの漢方の食材が使われている 〈右下〉落ち着いた雰囲気のレストラン。団体客の利用もあるので予約がベター
富山県を代表する日本海の幸、白えび。やわらかで甘みのある身は、殻のままでも食べることができます。鮮度落ちが早いため、水揚げ後は加工されることが多いですが、こちらの品は、急速冷凍技術「プロトン凍結」によって生同様の鮮度が保たれています。職人が丁寧に身を抜いた刺身と、おぼろ昆布で挟んだ昆布〆、殻付きの3種のセットで富山の海の恵みを堪能しましょう。
※掲載の「お礼の品」は品切れや季節の都合で受付を終了・中止していることがあります。
殻付きのエビはから揚げや天ぷらにしてもおいしい
富山市郷土博物館(とやましきょうどはくぶつかん)
【電】076-432-7911【住】富山県富山市本丸1-62【交】富山駅から徒歩10分【料】入館210円(特別展会期中は変更あり)【時】9~17時(入館は~16時30分)【休】年末年始(12月28日~1月4日)、展示替え期間および館内整備日【P】富山市営城址公園駐車場利用101台(60分330円)
池田屋安兵衛商店(いけだややすべえしょうてん)
【電】076-425-1871【住】富山県富山市堤町通り1-3-5【交】富山駅から市内電車南富山駅前行きで9分、西町電停下車、徒歩2分。または市内電車環状線で13分のグランドプラザ前下車、徒歩5分【時】9~18時(レストランは11時30分~14時)【休】年末年始(レストランは水曜)【P】5台