約1200年の歴史を持つ古都で、町中のいたるところに世界遺産や重要文化財がある京都市は、
世界中から人が訪れる人気観光都市です。そんな京都に無数に存在する観光スポットのなかから、
今回は明治時代の元勲・山縣有朋の元別荘で、近代日本庭園の傑作とされる「無鄰菴」に注目。
現在は一般公開されている庭園のみどころや奥深い魅力に迫りました。
約1200年の歴史を持つ古都で、町中のいたるところに世界遺産や重要文化財がある京都市は、世界中から人が訪れる人気観光都市です。そんな京都に無数に存在する観光スポットのなかから、今回は明治時代の元勲・山縣有朋の元別荘で、近代日本庭園の傑作とされる「無鄰菴」に注目。現在は一般公開されている庭園のみどころや奥深い魅力に迫りました。
まずは京都市東部にあたる東山エリアを代表する観光スポットで、臨済宗南禅寺派の大本山「南禅寺」を訪ねました。
南禅寺は正応4年(1291)、亀山法皇が無関普門禅師(大明国師)を開山に迎えて開創された古刹で、京都五山の別格に位置づけられた京都を代表する禅寺です。東山連峰の裾野に広がる広大な境内は樹木に覆われており、歴史ある建物や多くの塔頭を四季折々に彩ります。観光客がピークを迎える紅葉シーズンはもちろん、一年を通して多くの人が訪れるため、比較的人が少ない朝に訪れるのがおすすめです。
みどころとしては、歌舞伎「楼門五三桐(さんもんごさんのきり)」で、石川五右衛門が「絶景かな」と見得を切った三門が有名です。高さ22mの2階からは京都市街を眺めることができ、五右衛門の名台詞にも大いに納得。琵琶湖から京都市内に向けて引かれた水路(疏水)の一部で、赤煉瓦のアーチが美しい水路閣や、国宝の方丈も見逃せません。
〈上〉明治32年(1899)に国指定重要文化財となった三門。五間三戸二階二重門、入母屋造、本瓦葺の構造 〈左下〉赤煉瓦のアーチが特徴的な水路閣は、境内の樹木や周辺の塔頭ともなじんで、南禅寺を代表する景観の一つに 〈右下〉幾何学的な美しさが禅宗建築の特色を表しているといわれる法堂
南禅寺の参道を歩いて下ること約10分、元々は南禅寺境内の一部でもあった場所に立つ「無鄰菴」は、明治29年(1896)に、明治・大正時代の政治家・山縣有朋の別荘として造営されました。敷地内には3つの建物と、近代日本庭園の傑作といわれる庭園があります。昭和26年(1951)に国の名勝にも指定されたこの庭園は、施主山縣有朋の指示に基づいて、当時、名庭師として有名だった七代目小川治兵衛によって作庭されたもので、それまでの日本庭園の概念を打ち破る画期的なものだとされています。
自己流の庭園を作り上げようとした山縣有朋は、それまでの庭園造りには見られなかったさまざまな手法を取り入れており、無鄰菴では、庭園を散策しながら、その創造力あふれる世界を目の当たりにすることができます。それは例えば、京都の庭の美点といわれてきた苔を使わず“芝”を植えたり、当時、庭木としては使用されていなかった“樅の木”を使ったり、池を嫌って里山の自然な流れを再現した“川”を造ったりと、徹底して自己流を貫くことでした。山縣有朋と七代目小川治兵衛は、苦労の末、当時画期的だったまったく新しい自然主義的な庭園を作り上げることに成功したのです。
〈上〉庭園の全景。奥には東山の山並みがそびえる 〈左下〉疏水から直接サイフォン式で引き入れた水が庭園内を流れる 〈中央下〉造営からしばらくすると芝に代わって苔が優勢に。現在では庭園内に50種以上の苔が広がる 〈右下〉母屋から見渡した庭園の様子
山縣有朋は背後にそびえる東山連峰の景観と庭園の風景との調和にもこだわりました。“視点場”の一つである、周りのものより一回り大きい丸い飛び石に立って眺めると、実際に背後の山と庭園が一体化しているような不思議な感覚を得ることができます。この視点場からの景色こそ、作庭した主人が「ここからの景色を楽しんでほしい」という思いを込めたものだともいわれています。
そんな庭園の奥深い魅力を余すことなく知りたいなら、庭園コンシェルジュとよばれるスタッフが解説しながら一緒に回ってくれる「週末庭園めぐり」や、日頃から無鄰菴の庭園を手入れしている庭師が案内する「庭師ガイド」などのイベントがおすすめです。無鄰菴スタッフの一人である平野さんは、毎週水曜に「野鳥講座」を担当しています。「できるだけ自然の姿に近い庭園を作り上げようとした山縣有朋の意志にも沿うかたちで、東山周辺に生息する野鳥の訪れも歓迎しています」という平野さん。
また、無鄰菴の母屋では、庭園を眺めながら無鄰菴セットなどのお茶とお菓子をいただくことができます。明治28年(1895)に、南禅寺の別荘群の第1号として建てられた趣ある母屋からお茶をしながらゆっくりと庭園を鑑賞するのもおすすめです。
〈上〉野鳥講座を担当しているスタッフの平野さん 〈左下〉庭園内に数カ所設けられた視点場の一つ 〈中央下〉母屋の床の間に飾られた可憐な花々 〈右下〉無鄰菴セット800円。どら焼きには無鄰菴の川の流れをイメージした焼印が押されている
無鄰菴の敷地内には、庭園と母屋のほかに茶室や洋館もあります。庭園の片隅に立つ和の風情あふれる茶室は、造営当初に外部から移築されたもので、通常外から眺めることしかできませんが、予約すればお茶会や着物教室などへの貸切り対応も行っています。
洋館は館内を見学することができます。1階には無鄰菴の歴史、名勝庭園としての手入れの方法などがわかる資料やビデオが展示されており、2階には山縣有朋や伊藤博文、桂太郎、小村壽太郎らが、日露戦争の開戦について話し合ったとされる「無鄰菴会議」に使われた部屋があります。明治36年(1903)にこの部屋で行われた無鄰菴会議は、その後の日本の進路を決定づける重要な出来事として歴史に刻まれており、無鄰菴では当時の様子を再現した展示を見ることができます。この室内で為政者たちがどんな話し合いをしたのか、まさに歴史ロマンを感じさせてくれる展示になっています。
施主のこだわりが詰まった物語性あふれる庭園と、近代日本史の転換点となった歴史的な舞台を実際に自分自身の目で確かめることができる無鄰菴。京都を訪れたらぜひ立ち寄ってみてほしいおすすめのスポットです。
(2019年12月)
〈上〉無鄰菴会議の舞台になった洋館の2階 〈左下〉明治28年(1985)頃に無鄰菴に移築された茶室。山縣有朋が「月見台」と名付けて、ここからの景色を楽しんだといわれる 〈右下〉南禅寺界隈の別荘群の中で唯一通年公開されている施設
京都市にある花街の一つ、宮川町にあるお茶屋で本物の舞妓遊びができるプランが登場! 通常は一見さんお断りの風習が残る舞妓遊びは一般の人には高いハードルですが、このプランでは、元芸妓の小糸さんが女将を務める由緒あるお茶屋の「花傳」で、京懐石料理を味わいながら、舞妓の舞や唄、三味線を楽しむことができます。芸妓舞妓のお酌でいただくお酒も格別で、京情緒あふれる贅沢な夜はきっと思い出に残るひと時となることでしょう。
※掲載の「お礼の品」は品切れや季節の都合で受付を終了・中止していることがあります。
〈左〉安土桃山時代に形成されたといわれる宮川町 〈右〉修業を積んだ舞妓が伝統伎芸を披露
南禅寺(なんぜんじ)
【電】075-771-0365【住】京都府京都市左京区南禅寺福地町86【交】地下鉄東西線蹴上駅から徒歩10分【料】方丈庭園500円、三門500円【時】境内自由(方丈庭園、三門は8時40分~17時 ※12~2月は~16時30分)【休】12月28日~12月31日は非公開【P】12台
無鄰菴(むりんあん)
【電】075-771-3909【住】京都府京都市左京区南禅寺草川町31【交】地下鉄東西線蹴上駅から徒歩7分【料】入場600円【時】9~18時(10~3月は~17時)【休】12月29日~12月31日【P】なし