平泉を築いた奥州藤原氏ゆかりの地として知られる奥州市は、南部鉄器の里でもあります。
奥州藤原氏初代清衡の時代から作られていたという鉄器は、今やモダンなものも続々登場。
今回は、世界的デザイナーとのコラボレーションで話題の老舗鋳造所へ。
時代を超えて進化する、南部鉄器の新たな魅力に迫ります。
平泉を築いた奥州藤原氏ゆかりの地として知られる奥州市は、南部鉄器の里でもあります。奥州藤原氏初代清衡の時代から作られていたという鉄器は、今やモダンなものも続々登場。
今回は、世界的デザイナーとのコラボレーションで話題の老舗鋳造所へ。時代を超えて進化する、南部鉄器の新たな魅力に迫ります。
岩手県の内陸南部にある奥州市は、奥州藤原氏初代清衡(きよひら)の生誕の地。清衡は平泉に移るまでこの地に暮らし、平和都市・平泉の構想を練ったといいます。
まずは、奥州藤原氏について知るため、「歴史公園えさし藤原の郷」を訪ねました。平安時代の建物や庭園を再現した園内は、スケールが大きく、見ごたえたっぷり。映画やドラマなどの撮影に使われることも多いので、タイミングが合えば撮影風景を見ることができるそう。衣装の着付け体験や弓矢体験、トリックアートなど多彩な体験メニューも楽しみ。平安時代にタイムスリップしたような気分を味わえます。
〈左上〉約20haの敷地に約120棟の建造物を再現している。写真は政庁 〈左下〉奥州藤原氏三代秀衡の居館を想定して再現した伽羅御所。庭園もみどころ 〈右〉十二単・束帯(有料、要予約※写真)のほか、時代衣装(無料、予約不要)の着付け体験も
歴史公園えさし藤原の郷から車で20分ほど。次に向かった先は、奥州市水沢地区です。ここ水沢地区は古くから鉄器の生産が盛んな地域で、鋳物関連の会社が多いエリア。鉄や木炭、鋳物に適した砂や粘土が豊富にとれ、鉄器製造にぴったりの場所だったのだそう。この地域で鉄器が作られるようになったのは、藤原清衡が近江国から鋳物師を招いたのが始まりだといわれています。
今回の目的地は、「及源鋳造」。嘉永5年(1852)創業の老舗ながら、デザイナーらとコラボレーションしたモダンなアイテムで注目を集める鋳造所です。到着すると、専務の及川秀春さんが工場内を案内してくれました。
造型、注湯、仕上げなど、鉄器ができるまでの各工程には、熟練の職人がスタンバイしています。「全工程一つも手を抜けません。各自が微妙な調整をしながら、丁寧に作り上げていきます」と及川専務。創業から160年以上経った今も、職人の技術と感覚は脈々と受け継がれています。
〈左〉及川秀春さん。伝統と最新技術を融合させ、パフォーマンスの高い鉄器製造を目指す 〈右上〉高温で溶かした鉄を砂で作った型に流し込んで作る 〈右下〉工場見学は平日13時30分~16時(無料、前日までに要予約)
工場で作られた鉄器は、併設のファクトリーショップで手に入ります。店内にはさまざまなコレクションが並びますが、なかでも話題を呼んでいるのが、イギリスのプロダクトデザイナー、ジャスパー・モリソン氏とのコレクション「Palma(パルマ)」です。世界的に影響力のあるモリソン氏が鉄器のデザインに携わったのは、このコレクションが初めて。綿密な打ち合わせを重ね、試行錯誤の末に生まれた鉄器は、洗練されたデザインと使いやすさを追求した逸品です。
「ティーポットの丸みのあるフォルム、横に流れるラインなど、これまでの南部鉄器になかったデザインが散りばめられ、私たちにとっても新たな発見でした」と、カスタマーリレーションズの小澤悠寿さんは言います。食卓にそのまま出せるおしゃれな南部鉄器は、幅広い世代に人気だそう。Palmaを通して、南部鉄器の魅力に触れた人も多いようです。
〈上〉Palmaキャセロール(24cm)2万3760円、木台1万2960円など 〈左下〉ティーポット(1リットル)1万6200円。ふたに付いたヤシの木のシルエットがアクセント 〈右下〉「工場見学の後にショップに立ち寄ると、南部鉄器の見え方が変わるはず」と小澤悠寿さん
ジャスパー・モリソン氏のほか、社内外のデザイナーや料理研究家らとも手を組んで新商品を次々と生み出している及源鋳造。ショップ限定のアイテムも並ぶ店内を眺めているだけでも、料理の意欲がかきたてられます。「鉄器は育てる愉しさがある」と小澤さんが言うように、使うほどに風合いが増すのが鉄器の魅力。お気に入りを見つけて、長く大切に使い続けたいものです。
「及源の鉄器は、肌のきれいさにこだわっています。触った時の感覚を大切にしているんです」とは、及川専務の言葉。実際に手にとってみて、鉄ならではの独特の質感を体感してみてください。見て、触って、使って愉しい。ずっとそばに置いておきたい工芸品がここにあります。
(2018年7月)
〈上〉手掛ける商品は約800種類。特に鍋のラインアップが充実 〈左下〉鉄瓶の湯で淹れたコーヒーやお茶の試飲もある 〈右下〉暮らしの中の南部鉄器をイメージしやすいように、ディスプレイにも力を入れている
奥州市江刺地区はりんごの産地としても知られ、江刺産のブランドりんごは1箱130万円で落札されたこともある一級品。「江刺ふるさと市場」では、野菜や果物、米、地酒など地元食材を多彩に取り揃えています。江刺産りんごが並ぶのは、秋から冬にかけて。りんごのジュースやアイス、ゼリーなどの加工品は通年販売しており、おみやげにもおすすめです。
生産者直送の野菜や果物のほか、加工品も充実している
江刺りんごのストレートジュース1缶103円~
歴史公園えさし藤原の郷(れきしこうえんえさしふじわらのさと)
【電】0197-35-7791【住】岩手県奥州市江刺岩谷堂小名丸86-1【交】JR水沢江刺駅から車で15分【料】入園800円【時】9~17時(11~2月は~16時)【休】無休【P】1000台
及源鋳造(おいげんちゅうぞう)
【電】0197-24-2411【住】岩手県奥州市水沢羽田町堀ノ内45【交】JR水沢江刺駅から徒歩10分【時】9~17時【休】無休【P】10台
江刺ふるさと市場(えさしふるさといちば)
【電】0197-31-2080【住】岩手県奥州市江刺愛宕金谷83-2【交】JR水沢江刺駅から車で5分【時】9~18時(食堂は11~15時、喫茶は11~17時)【休】1月1〜3日【P】70台