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彦根市で「一家に一台」といわれる必需品
琵琶湖のすぐそばに彦根城がそびえ立つ、滋賀県彦根市。江戸時代には、多くの政治家を輩出した彦根藩が置かれていました。今でも城下町の趣が残され、年間を通じて全国各地から観光客が訪れます。毎年開催されている人力飛行機の大会「鳥人間コンテスト選手権大会」も、彦根市が舞台です。
この彦根市に、「一家に一台ある」といわれるボードゲームがあります。それが「カロム」です。なかなか聞き慣れませんが、かつては全国で知られていたんだとか。滋賀県内の一部地域を除いて全国ではあまり知られなくなったものの、彦根市ではオセロや将棋に並ぶボードゲームとして、人々の暮らしに広く浸透しているのです。
おはじきとビリヤードを掛け合わせたゲーム
そもそもカロムとは、「おはじき」と「ビリヤード」を掛け合わせたゲームのこと。四隅に穴が空いている大きなボードの上で、自分の駒をおはじきのように飛ばし、ビリヤードのように隅の穴にいかに早く駒を落とせるかを競います。駒を飛ばす方法としては、一本指の力を使っていれば他に制約がないので、さまざまな飛ばし方があるんだとか。
このカロムに似たゲームは、世界中に存在しています。12世紀ごろにエジプトで原型が確立されたといわれており、シルクロードや海を渡って各地に知られていきました。アメリカの「キャロム」やカナダの「クロッキン・クール」など、名前やルールが似ているゲームが今日まで受け継がれています。
カロムが彦根市に残っている理由は、諸説あり
世界にはルーツをカロムと同じくするゲームが多く残りますが、日本で今でもここまで浸透しているのは、彦根市だけ。しかし、彦根市で広まった理由は諸説あり、どの説が正しいのか分かっていないようです。
例えば明治時代に日本で活躍し、滋賀県内で多くの建築物を残している建築家のウィリアム・メレル・ヴォーリズがカロムで遊んでいた説や、カナダに移住した彦根市民がカナダ版カロムのルールを持ち帰った説など、さまざまな物語が残っています。カロムについて教えてくださった、日本カロム協会の事務局長を務める安居輝人さんが、ご自身で有力だと考えている説を教えてくれました。
「彦根市で長年続いてきた地場産業の一つとして、『彦根仏壇』が挙げられます。近年仏壇を購入する人が減少するなかで、仏壇屋が制作を始めたものの一つがカロムでした。私は祖父が手作りした簡単なカロム盤で遊んでいましたが、自分で作る人は次第に減っています。でも彦根市では、手作りしなくても購入する選択肢がすでにあった。だからここまで続いたんじゃないかなと考えています」
親しんできたカロムを全国に広めたい
彦根市では、将棋とオセロに並ぶボードゲームとして知られているカロム。他県に進学した彦根市出身者が、カロムは全国区でないと知り、カルチャーショックを受けるようです。安居さんも同様に進学先で衝撃を受け、カロムがほとんど彦根市にしか残っていないと知ります。
そこで「カロムを広めたい」と公益社団法人彦根青年会議所のメンバーが大会を始めたことがきっかけで、1998年に日本カロム協会がスタートしました。現在でも毎年開催されているカロム大会には、県外、さらには外国からも参加者が集まり、多い年には700人ほどが参加するほど。昨今のボードゲームブームが追い風となり、盛り上がりを見せています。
世代を超えたコミュニケーションツール
安居さんが教えてくれたカロムの一番の魅力は、「年齢に限らず誰でも簡単に遊べること」。カロムは1対1、もしくは2対2で遊ぶ2パターンがあり、必ず対戦が発生します。自分の駒を決めたり細かなルールを確認したりする際に、もれなくコミュニケーションも登場。意外と面と向かって話す機会が少なかった家族や友人、これから仲を深めたい人と楽しく会話を弾ませるツールにもぴったりです。
幼児とお年寄りが一緒に遊べる特徴を活かし、世代を超えたコミュニケーションツールとしても重宝されています。2011年に発生した東日本大震災の後には、被災地にカロムを持って行きました。
安居さん自身も、世界ランクで最高7位を誇る腕前の持ち主。ご自分がカロムを愛するだけでなく、文化であるカロムを広めるために、小学校や老人会での講演活動にも積極的に取り組んでいるんです。
「おもしろいだけでなく、コミュニケーションツールとしても有効なカロムの魅力を、全国に広めていきたい」。そう語る安居さんがカロムを広める挑戦は、これからも続きます。
家族みんなでカロム盤を囲もう
基本的なルールを覚えれば、気軽に遊べるカロム。短ければ5分以内に1ゲームが終わるので、人数が多いシーンでも、自分の出番を待ちながら観戦を楽しめます。カロム盤が60cm四方と意外に大きいので、お正月やお盆に帰省したときに、食卓の上にカロムを置いてみんなで囲むのがおすすめです。ぜひカロムで家族や友だちと会話の弾むひとときを楽しんでください。